12月29日(火)
「独裁者と小さな孫」を観てきました。巨匠モフセン・アフマルバフ監督の傑作です。「ある国で起こった出来事」と銘打って、グルジアで撮影された作品ですが、イスラム過激派のテロが荒れ狂う今の世界でも、同じようなことが色々なところで起こっているのではないでしょうか。実に考えさせられる映画でした。
独裁者の圧政を倒して革命の嵐が吹き荒れる某国。そういう設定だけに、厳しい暴力的シーンがそこかしこに挿入されていますが、私が一番衝撃を受けたのは、逃亡の末に老齢の大統領とその孫がついに人民に捕まってしまう場面。(まだ映画を観ていない人にはゴメンナサイ!)権力を乱用し、国民に対して傍若無人を繰り返した大統領がクーデターにより、追われる身となり、小さな孫を連れて逃げ回った末の悲劇。復讐の怨念に囚われた国民は、懸賞金がかかった彼を、いかにして殺害するかでもめます。家族を殺された苦しみと同じように、この独裁者にも味あわせるべきだと、小さな孫を絞首刑にせんと首に縄をかけるのです。恐怖に怯える小さな男の子の目が悲しいまでに美しい!ああ、これこそがマフマルバフ監督のメッセージなのだと感じ入りました。
独裁と圧政は絶対悪です。しかし、それを打倒する革命が暴力を正当化するわけでは決してありません。暴力は憎悪を招き、更なる暴力へと連鎖する。故国イランを追われ、今なお欧州で亡命生活を送るマフマルバフ監督のメッセージは、この「悪魔の連鎖」を断ち切らないと、世界平和は実現できないということなのでしょう。ISILによるパリでの連続テロ事件を契機として、それまでウクライナを巡って対立してきたフランスとロシアが手を結び、シリア爆撃を強化し、それが更なるテロを呼んでいます。マフマルバフ監督のメッセージを重く受け止めねばなりません。
今年の年明けは、残虐なISILの蛮行に多くの日本国民が衝撃を受けました。今この瞬間も戦禍のなかに身を置く人々、祖国を追われる人々が居ることに思いを馳せ、来年こそはどうか平和を、と願わずにいられない傑作でした。