5月30日(月)
伊勢志摩サミットにおいて安倍総理は、世界経済はリーマン・ショック前の状況に似ていると唐突に発言し、G7首脳と認識を共有したと胸を張りましたが、そう思っているのは総理だけのようです。英キャメロン首相や独メルケル首相が異論を唱えたことは欧米メディアを中心に広く報道されており、27日付けフィナンシャル・タイムズ紙は「アベの悲観的なメッセージはG7の説得に失敗した」という記事を掲載し、総理のリーマン発言は消費増税再延期のための国内向けのものだと報じました。私は二つの意味で、総理の危機感を煽る発言が世界から相手にされなくて良かったと思っています。
第一に、総理の発言は事実と異なります。政府は23日の月例経済報告で「世界の景気は弱さが見られるものの、全体としては緩やかに回復している。先行きについては、緩やかな回復が続くことが期待される」と発表したばかりです。データに裏打ちされた公式見解と真逆のことを突然発言したのはなぜなのか、不思議でなりません。奇しくもサミット二日目と同日の27日、アメリカ連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長が講演において今後数ヶ月以内に利上げする可能性を示しました。世界経済がリーマン・ショック前のような状態ならば、慎重なFRB議長が金融引き締めを示唆するはずがないでしょう。
第二に、総理の発言は日本の景気回復に有害なメッセージです。本年1~3月期の設備投資は1.4%減と3四半期ぶりのマイナスでしたが、リーマン発言が真剣に受け止められれば、企業の投資マインドが更に萎縮し、内部留保を増やそうとする恐れがある。その結果、実質賃金が更に下落し、消費が一層落ち込めば、日本経済は負のスパイラルに陥るリスクすらある。今のところそうなっていないから良いようなものの、アベノミクスの失敗を糊塗するために危機感を煽るようなことは止めて頂きたいと思います。
社会学では、間違った認識が行動に影響を与え、ついにはその認識が現実になってしまうことを「自己成就的予言(self-fulfilling prophecy)」と言うそうです。ある銀行が倒産するかもしれないという噂が流れ、心配になった預金者が一斉にお金を引き出し、本当にその銀行が倒産してしまうといった事態がその典型です。総理のリーマン発言が「自己成就的予言」になりませんように!